ゆうしゃなう

モクジ
1.魔王覚醒二度寝する
大国イレントのはるか北に広がる地には、数千年前から魔族と呼ばれる種族が暮らしていた。初代魔王によって全種族が統一されてからは民として生活していた。しかし間もなく人間との対立が始まった。古代イレントとの対立による『人魔聖戦』によって、初代魔王は勇者と相撃ちになったという。双方の死体は見つからないが、魔族の敗北となり、あれ、引き分けじゃね? と思う間もなく領地を奪われた。
それから五百年、魔王は四代目のドルノ=エンディアークになった。
ドルノは人間で言えば十七、まだ子供であった。しかし、なんかある日父親である三代目が「隠居したいよう」と駄々をこね、就任するはめになったのだ。
ドルノの父の代で、イレントは全人類を従え、魔族討伐を始めた。イレントは数十年前からの敵対国フォルスに勝ち、資源国ウィニンティを保護といいつつ植民地に、あと小国の集まりである七カ国同盟をあっさり手中に収め、フォルスの属国サンチェフもあっさり打ち倒して、世界の九割九分九厘以上を治めたのだ。
イレントの国民、属民でない人間種族は魔王領にあるポカ村村民しかいない。
そのポカ村民でさえ、「人間なのだから魔王領にいるべきではない」として、ポカごと吸収されそうなのだ。
そのイレントとの戦いの全権をまかされちゃったドルノ。
彼の今日の朝は、宰相ローディガンの声で始まった。
「陛下!!」
「やべ、寝過した!」
 慌てて着替え、ドルノは会議室に駆け込む。マンドレイクの少女が入れてくれた茶を飲んで目を覚ましていると、死霊の大臣・マデイロスが叫んだ。うるさい朝である。
「ぬこ男爵に頼んでいた四天王が全員辞任しました!!」
 ぶーっ。
「まあ二人しかいなかったが……」
「な、なんで……」聞いてないし、元から。
「はい。ぬこ男爵が指名した四天王、大地のザミアータは子育てが忙しいから辞めるそうです。あと腰痛を……」
「も、もう一人は……」
「火の穂村加園は実家の後を継いで花火職人になるんだとか……」
「カエンが四天王だったなんて初耳なんだけど」
 カエンはポカ出身であった。ドルノの少ない友人の二人目だった。先日、「炎使いなのはいいけど、火をどこから出してもパクリって言われそうで怖い」と言っていた。
 そんな彼が……。
「四天王総辞職の件で、ぬこ男爵は辺境に左遷しましたぞ。サーセンwwwwとかダジャレを言っていたので全員でフルボッコにしましたが……」
 それは自業自得な気がする。
「それで、四天王がないなら……」
「再度の募集をかけました。これが希望者の履歴書です」
「えっと……愛読書がマルデ・ド・エースの『悪徳の栄える街』……?」
「そいつも辺境に行かせましょう」
「えっ」
 なかなか上手くはいかない魔王軍なのでした。

2.人の世はスペクタクル
 サンチェフ王都、だったところ。
 今は東フォルスという。屈辱である。
 そこでコスタリカ・サンチェフはこっそりと会議を開いていた。
「それでは反イレント、略してハント会議を始める!!」なんでお前が仕切るんだ。
 集まった一人の若い王が叫ぶ。彼はフォルス国王だったアーロン・フォルスだ。マンズナル・フォルスの息子であり、母は世界五大美人のセリーナ・ワンテル。イケメン王だ。
「しっ。密偵でもいたらどうするんですか!」
 敬語を使ってしまうのはアレだ。元属国の。一度はイレントに先導されて脱フォルスしたけども。
「密偵なんて構うものか!!」
 ふざけんなよ困るのはこっちなんだぞロン毛抜けろ。
 ……と、言う事も出来ずにコスタリカは溜息。
「エスクック・ウィ二ンティどのは、何かありますか?」
 話題を変えることで切り抜けることにした・
「私ですか?イレントの目があり、なかなか行動はできませんが……実はイレントに見つかっていない鉱山や道路があるんで、作戦が確実になったら本格的に協力しましょう」
 エスクックよくやった。奥さんも喜ぶだろう。彼の王妃のアイちゃんもいいひとなのだ。見習えよロン毛。
「うむ!!でかしたウィンティニンどの!!」
 誰だよ。エス氏も困ってんだろロンゲスト。
 そんなコスタリカの心の声も届かないアーロンは七人にむかって指をさして言う。
「皆の者、意見は!!」
 いや、七カ国同盟は過去も今もお前の手下じゃないだろ。むしろこの間までウィニンティと同じくイレント側だったのが事実上の同盟破棄でこうなったんだろうが。
 失礼な若造に指差された七人は、
「おなかへった」「そんなことより野球しようぜ」「その件につきましては」「はっはっはっ」「そうですねえ」「グーグー」「お茶はまだかのう」
 こいつらもだめだもう。
 エスと二人で頑張るしかないなこりゃ。

3.俺様勇者の憂鬱
 東フォルスの元王都の町の豪邸に、絶叫が響いた。
「なんじゃこりゃあ!!??」
 声の主は、少年だ。十七くらいだろうか、ツンツンした黒髪が特徴的である。
「なんででかいケーキが部屋中に有るんだよ!!?」
「なんでってー、あっちゃん。今日はパパが釈放されるのよ」
「暴れ馬町に出すなよ!!というかあと三カ月は平和なんじゃなかったのかよ!!」
「お金渡したらいいよっていってくれたのー」
「使ったのかよこのやろう」
「ママはおんなのひとだからこのアマっていうのよ」
「どうでもいい」
 普通の人間の一生分の溜息を吐きだした少年、アーギルハース・アルギット・モヴルヘルトは頭を抱えた。よく見ると、カーテンにクリームが付いている。誰が洗濯するのかを考えると、頭痛で死にそうだ。
 もういやだ。自分が死ぬくらいなら相手を、なんて物騒な考えが湧き出た。
「……せめて月10000Gは稼げよ」
「いやよう、そんなはしたがねー」
 もういやだ。
「こ、こんな家出て行ってやる!!」
「お金はどうするの?」
「真っ先にそれかよ!!」別に心配してほしいわけではないけれど。
「そうだわ、町で『勇者募集』のチラシ配っていたの。これでお金を稼いで家に入れてね」
「野垂れろ」死ねと言わなかった自分いいやつ。
 アルギットはチラシをちぎってごみ箱に入れてから、荷物をまとめて家を出た。

4.来たの国から
「やりすぎた……」
 火薬の調節をしていたら、なんかぶっ飛んだ。
 ちなみにどこから出したかはヒミツである。裁判は嫌だから。
「ここは……?」魔王領だろうか。
 見ると、そこは荒れ地。草はあまり生えていない。
 随分と遠いところに来てしまったらしい。帰れる事を祈るしかなかった。
「おーい」
 声がして加園がそちらを見ると、猫の姿をした魔族がいた。
「君も流されたクチかな?」
「飛ばされたクチだ」
「同じか」
 何がだろうか。川に流されてきたという事だろうか。
「ここでゾッホ君と鳩を飛ばしているのだよ」
「…………?」
「あちらにいるのがゾッホ君だ」
「オレは加園です」
すると相手は毛を逆立てた。
「じゃあ君が左遷の原因となった……!!」
「つまりぬこ男爵が……」
「このうらみ、はらさでおかべきく!!」
「うわあ、逆恨み!」
 逃げようと思った加園は、炎を出した。どこから出したのかはヒミツだ。それを火薬につけて、飛び上がった。
「こらー!! またんかい!!」
 ぬこ男爵は走り出したが、二本足の猫では追いつかなかった。

5.すとりんじぇんどっ!
 男を救ったのは、少年と少女だった。
「いいえ、大部分がパンフルさんです」青い髪の少女は胸を張った。首からかけているハーモニカが揺れる。
「アルフ殿下は見てただけです」
「そんな事言ったって」アルフと呼ばれた少年はぼやいた。
 アルフは祖国をイレントから取り戻すべく旅に出たのだ。悪の科学者アッテンポを倒すため。勲をたてて存在を大きくするのだ。それが王子であるアルフの役目だ。
 旅の途中、アッテンポの創った特殊生命体に襲われていた男・カルクを助けた。
 …………パンフルが。
「いくらパンフルさんを雇っている王子様だからって、何もしなくていいわけじゃないです。働かなきゃそこらへんに放置します」
「やめてー」
 アルフはすがった。
「パンフルさんだってこんな仕事好きでしてるんじゃないです。十年前に母が死ななければ普通の農民なんです。リコ兄ちゃんもどっか行っちゃったし。金目当てです」
「そんなお金だけが目当てだなんて……いけず! いかず後家!!」
「あんた、待ってくれないか?」
 忘れられかけていたカルクが声をかける。
「俺もアッテンポに用があるんだ。連れて行ってくれないか?」
「誰がおれとパンフルのラブラブ二人旅を邪魔させるもんか」
「今の、セクハラで訴えられます?」
「それより、あっちの向こうでアルフ王子を呼んでいる二人組がいるんだが」
「ちっ! まいたと思ったのに」
 王子と金の亡者の少女と謎の男は護衛二人を加えて北を目指して歩くことにした。

6.封印されしが伝説で
 ドレス姿の女は脱いだヒールで山賊に殴りかかった。山賊は倒れた。
「ふう、たわいないですこと」
 彼女の元に駆け寄るのは、肩にかからぬ短い黒髪の少女である。動きやすい服にマントで、そして双鞭を持っていた。
 いま、鞭という単語に反応した人には悪いが、ここでは鉄の棒の事である。
「シンディさん!」
「そっちは片ついたようね、レッティーナ」
 シンディは振り向いた。少女の姿を認めて、眉をしかめる。
「何それは」少女が胸に抱いていたものを指差して、言う。
「子豚のピリーだよ」
「ブー(運命の出会いだったv)」
「非常食なの!!」
「ブ!?(ええっ!!??)」
「育ってからになさい」
「はーい」
 食用にカウントされたが、ピリ―は少女、ミンティワーニア・レッティーナ・フルバルトに恋をしていた。一目ぼれ。豚のくせに。
「ブー(きっと前世からの縁にちがいない)」
 じゃあ家畜に生まれ変わったお前は前世で何をやらかしたんだ。
「ブー(色男が美女と恋に落ちたのが罪なんだろうさ)」
 言ってろ。
「それにしてもわたくしたちはこれからどうすればいいのかしらね」
 シンディは腰に手を当てて溜息をつく。
「さあ。勇者だから魔族の国に殴りこめばいいのかな……?」
「…………不本意?」
「わからない……」
「とにかくしばらくは勇者やるのもいいかもしれないわ。イレントから補助金は出るし、名前が知れ渡れば何か記憶のヒントがでるかもしれなくてよ?」
「そうだね」
 力無く笑う少女。
 疲れた彼女は大木に背中をまかせた。
「わたくしは起きてますから、寝ていたら? 家宝の指輪と首飾りとティアラがあるから野犬一匹近寄れないわよ。炎の帝王ユウと氷の大王ミヤ、そして雷の皇帝キムがついているのだから」
「ありがとう」
 少女は非常食を抱きしめ、目を閉じた。
(さっき会った男の子は私の名前を聞いて何か知っているようだった。でも、何も言わなかった。彼の、アギア君の持っていた剣、なんで見覚えがあったんだろう……?)
 わからないことだらけなのだ。世界は彼女にとって不気味だった。
(それより……目覚めたときに私を見ていたのは誰? 魔族の、男の人……?)
 彼女の知りたいことすべてが明らかになるには、まだまだ時間がかかるのだった。

7.この度我が道
 青年は捜していた。いきなり居なくなった老人を。育ての親を。
「ぎゃあああああああ!!」
 だから、ここで死ぬわけにはいかないのだ。獣に襲われて、果てるわけには。
「ぎょほおおおおああああ!!??」
 畜生、ここまでか。ギャグじゃない。
「く、ぎょああああ!!」
 獣が彼、レオンの上で咆哮した、その時、救世主が現れた。
「大丈夫?」
「ラウム………」レオンの弟分がナイフを投げたので助かった。
 威嚇で逃げて行く獣、正しくは子犬を見送り、息をつく青年。
「こ、殺されるんじゃないかと思った」
「僕もまさか兄貴分がチワワに殺害されかけるとは……」
 青くなる二人。ラウムはいきなりはっとした。
「そうだ、リリーナは!」
「あ」
「さっき集落を見付けたと言って走ったっきり……」
「おいかけるぞ!」
 二人は魔族領を駆けた。ここになら育ての親、ロータスと名乗る彼について知ることができそうだったからだ。
 そして妹分と四人で昔どおりに暮らす、それが願いだった。
「リリーナ!!」
「あ、二人とも! あたし山賊倒したよ、十人」
「撲殺!?」
「殺してないってば」

8.策士少女のゆめうつつ
 男は進み出、王に策を述べた。
「ここは退きましょう。先には罠があります。地形的には落とし穴の先に岩を落とす仕掛けが有るでしょう。相手の食料がなくなるまで山に登らせ、水源を断つのがよろしいかと」
 周りの者たちはざわめいた。罠に気付かなかったからだ。罠がなかったとしても、今回兵糧攻めは効果的だ。敵軍は長い遠征の末にこの地へたどり着いたのだから。
「どうです陛下」
 その男は王を窺う。わからないほど馬鹿であるはずがない、そう信じて。
「是非ともこの策を……」
「却下」
 王は軍師の男を凍らせた。
「な、何故ですか」
「だって調べたら、ミッちゃんのお父さんが敵軍にいるんだもん」
 ミッちゃんとは、王が勝手に惚れている女性のことだ。ちなみに彼氏がいることで有名だ。悪女ではない。王が知らないだけである。
「そんなのどうでもいいじゃないですか!!」
 馬鹿なのこのひとという表情な軍師。
「よくないもん。ミっちゃんのお父さんになにかしたらまたプロポーズ断られるじゃん」
「いや、恋人がいるからですって」
「む。よくも未来の奥さん・今のハニィを性悪の男たらしの雌狐と、稀代の悪女と罵りよったな! 皆の者、こやつを国外追放してしまえ!」
 やれやれといったかんじの兵士たちに掴まれて、軍師の男は連れ去られた。
「ちょ、腕がぬけた! 骨が逝くからやめ……げふぁ!」
「げ、血はいた!」
 遠ざかる男を背に、王は呟く。
「ロミジュリが悲恋で終わる時代は終わったのだよ。ハッピーエンドこそ素晴らしい」
 彼は気付かなかった。軍師追放で少人数ではあるものの周りの兵がいなくなったことに。
 そして敵軍のいる山に攻撃を真正面から仕掛けて軍が壊滅する未来に。
 そしてその時手下であるサンチェフ国に援軍を要請しても劣勢は変わらず、むしろサンチェフを巻き込んだだけに終わってしまう事を。
 そしてミッちゃんことミーナリア嬢は軍師追放の夜に式を挙げてしまったことに。
 
 そこで少女は目を開けた。夢から覚めて、欠伸一つ、体を起して髪を掻きあげる。
「はやくあの男を消さなきゃ……」
 だから彼女は父から受け継いだ策のすべてをイレント王女の傍らで使ったのだ。
 その辛く過酷な旅の途中、多国の生の情報を手に入れる事が出来た。
 突如雇用が減ったウィ二ンティ。サンチェフのキクレターツ・ルェトゥーがいきなり敗戦の責を負って辞職。美味しいパン屋さんが閉店。凶暴なチワワの増殖。『科学者』を名乗るアッテンポ。他にもたくさんの異変が大陸を揺り動かしている。
 これから時代は大きく動きだすのだろう。
 王女の失踪とともに彼女も王城を後にし、暗殺のために旅をしている少女、レイカ・レイメス。
 そこに腰を下ろしたときに足を捻挫し手首を外した上爪が折った彼女だが、頑張って生きてます。

9.予言されしと伝説と
 まずった。
 ドルノは逃げ出したくなった。
 父の引退は、これが原因だったのだ。
――勇者の来襲。
 目の前にいるのは人間の男。ツンツン黒髪の、剣を握った少年。
 そしてその仲間二人。
「まじですか?」
「そうですじゃ」マデイロスが答えた。
「だ、だれか……ローディガンは!?」
「ローディガンは人に会う用事があるとのことで、一カ月休みます」
 一カ月たったら魔族なかったりしてね。
 ……わらえねえよ。
「魔王! あんたはあたしたちが倒すわ!」
 魔法使いスタイルの少女が杖をかかげる。背後で鎧に兜と言う重装備の男が矢をとりだす。
 こちらにいるのはドルノ、マデイロス、のみ。
 たすけて加園。炎出す時は全体的にモザイクかけるから戻ってきて。ローディガンも。
「ぐわああーっ」
 悲鳴が聞こえてそのほうを見ると、地に伏せるマデイロス。
「はやっ!」
「持病のぎっくり腰です」
 しかも攻撃を受けたわけじゃなかったらしいよこの骨。
「ふ、しかしご安心くだされ」
 骨爺さんはカタカタ骸骨を鳴らして笑う。
「鎖骨を犠牲に、あの戦士の男に呪いをかけました。これであやつ、しばらく動けませんぞ」
「じゃああのホネ砕けばいいのか」
 勇者が呟く。
「殺生な」マデイロスが呻いた。まだ攻撃受けてないけど。
「まあいい。それより魔王退治が先だな」
 勇者は剣を構えた。闇のように黒い刀身に青いラインがぶきみに光る。鏡のようにまわりの景色を映していた。
「あ、あれは!!」 まだ黙らない骨大臣。
「初代魔王陛下の時代に世の中に現れ、勇者の手に渡り聖剣として鍛えなおされたという魔剣! 通称聖なる魔剣セイントダーク!」
「わかりにくい解説どうも」
「つまりその勇者は古代の勇者に何らかの関わりがあるという事です!!」
「まあ、なくてもあってもおれたちの悲惨な状況に変わりは無いんだよなー」
 空を自由に飛びたい。どこかへ逃げたい。
「だれか魔王替ってくれないかなー」
「殿下いや陛下のばかぁ!」
「うげっ」
 現実逃避したドルノの頭に、マデイロスの入れ歯が飛翔、激突する。
「なんとまあ情けない! 御父上様が御覧になったら、さぞかしお嘆きになるでしょう!」
「いや、引退したいって駄々こねてたけど」
「魔王ですぞ! 王なのです! 税金で生活してるんだからその分の働きぐらいは最低限にしてもらわねばならないのです!」
「いや、父も」
「王が人間の若造どもに膝を屈すると、国民もその程度だったということになるのです! 国家の誇りと言うのはそういうもんです! 多分!」
 ぎっくり腰で倒れた大臣が叫ぶ。
「さあ力の限り戦って下さい。せめて擦り傷ぐらいは負わせるのです!」
「それだけでいいの!?」ナメめられているのだろうか。
 そこまで言われたら、なんかしなきゃいけないような気がする。
「……やってみはする。がんばりはする」
「殿下じゃなかった陛下ガンバ!」
 前に出、勇者と対峙する。
 濃厚な殺気、動けば凍てつくような冷気に肌を削られてしまいそうだ。
 何より先に動き出すのは、魔法使い風の少女。彼女は杖をふるい、呪文を唱えた。
「ファイアーボール!」
 天井近くに燃えたぎる火球が現れた。
「うわっ」
 人間であのレベルなんて。魔族の自分すら超える魔力を扱う人間なんて聞いた事が無い。
 あれを受けて、無事でいられる生命体なんて存在しないのではないか?
 こないでーと心中で繰り返すドルノに、無慈悲にも火球は襲いかかった。
「「ぎょええっ」」
 ……??
 炎が収まったころに起き上がると、勇者まで倒れていた。ボロボロだ。
「な……てめ、……」
「あ、ごめんねアギアー」
「……」
 勇者は抗議したらしいが、あっさりと流された。自分ごと奴を倒せ、とかそういう展開じゃなかったらしい。まあ序盤だしね。
「トルネード・ハリケーン!!」またも噴き出す魔力。
 えっ。
「「ぎひあああっ」」
 再び勇者と攻撃を受ける。攻撃範囲が通常の数倍だ。威力も倍。グルグルと空気の流れに従って振り回される。酔った。
 吐く前に解放され、やっぱり二人で地面に投げ出される。
 ドルノは魔力でクッションを作ったのでいくらか衝撃を軽減できたが、勇者は受け身なしで地面に墜落した。
 まだ生きている辺りが勇者である。ふらつきながらも起き上がる。
「な、何故……」
 自分も何故だが、問わずにはいられないのだ。
「なぜ勇者は戦うんだ……」
 きっとはじめの魔王もそう思ったんじゃないのか。そう思わずにはいられない、それが、魔王なのではないか。
「決まってんだろーが……」
 人間の善玉の代表であるべき勇者に似つかわしくなく、口角をあげて笑う勇者。
「さっさと金稼いでDQN親捨てて気ままに暮らすためだ!!」
 わんと響くその声。
       。
           ?
 いやいや。
「それはちょっとなあ」事情はわからないが、がっかりした。
「同情するなら金よこせ!」
「してないから」
 後ずさるドルノ。
 その時、またまた少女が杖を振った。
「サンダーボルト!!」
「「もぎょへっ」」
 勘弁してよ。
 見えていたので防御壁を作り出す事が出来たからいいものの。無防備だった勇者はマズそうだ。生きてると良いな。
「あ、勇者が死にかけてる……」
 大丈夫だろうか?
「アギアに近づかないでよ魔王! くらえ、フレイムレイン!」
「ゆ、勇者ー!!」
 今回は勇者のみに降り注いだ。
「あ、アギア大丈夫?」
 なわけない。
「勇者、生きてるか!? 傷は深いぞ言い残す事は!?」
 いまここで一つのいのちが失われようとしている、わけではないけども。
 這いつくばる勇者は腕で頭を支える。傷だらけであった。
「…………ぐふっ」
 ばたっ。
「勇者がぐふっ言って力尽きたー!!」
 思ってもみないさいごであった。
「おお陛下よ自滅させてしまうとはなさけない!」
「マデイロスはだまっててくれよ」
 そんなかんじでしばらくは平和な予定である。
モクジ
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