カー●キャ●ターいつみ

モクジ
第一話 てんかさんぷんカップめん並み


軍服姿の男の胸には、勲がたくさんついていた。
 軍刀を持ち、銃も所持している彼は、もんぺ姿の女につめよる。
 目は血走っている。
「あの本は何処だ?」
 刀を抜き、女の鼻の前につきつける。
「千夜一夜物語―――」
 そのまま、新兵を叱咤するように言う。
「アラチンとまほうのらんぷはどこだときいているぅっ!」
「ひいっ!」



 正座は苦手だ。
 祖父にいきなり座れと言われた。
 逸美はしびれる足をどうにもできないまま、祖父が話し始めるのを待っていた。
「…………」
 五分、足が半死と訴える。祖父は話さない。
「…………」
 しびれを切らしそうだ。
「あのう、お祖父ちゃん……?」
「逸美…………」
 振り向き、カッと目を見開く七十歳。
「ジイちゃんはまだボケとらんぞ!」
 立ち上がり、ファイティングポーズをとった。
「えっ」
「昨日のメシも覚えとる! まだまだ介護はいらん! でも手すりとかつけてくれると嬉しい!」
 天井のシミにむかって絶叫する祖父を、どうしていいのやらわからないという目で見るしかない逸美。
「なんなの、お祖父ちゃんっ」
「だからワシの言うことを黙って聴いてくれ」
 ようやく落ち着いて座る祖父。
 確か、昨日まで自分のことはオレと言っていたような気がした逸美であった。

――陰陽師とは陰陽道を行なうモノである――
 古代中国の五行から、日や月や星を読む。後に占いにつながったとかそんな感じな気がする。
 安部清明の伝説ならば、今でも有名だ。
 クダギツネや、なんか紙で……。何かした。
 今から考えるとありえない、魔法のような技術を使っていたのだ。
 もしも現実になったならば。
 そう考えた人が近代にいた。
 旧日本軍である。
 世界中の文献を集めて、清明の技のごく一部を再現することに成功した。
 実現化はされなかった。
 すべては極秘で済まされ、技術は封印された。

「しかし、関わりを持った人々は、代々その再現されたものを守っている」
 それが、ワシの父からの家系なのじゃ。
「えっ? うそ、信じられないよ、そんなこと」
「まだモーロクしとらんぞ」
 当然の反応でしょうと、逸美は言って足をくずす。
「くっ…………。孫娘からこんな屈辱を受けるとは……。それではこれを見るがいい!」
 祖父三蔵はていっと立ち上がると、最近着始めた和服の胸に手を入れる。
 取り出したのは、四枚の札。
≪曹≫≪亮≫≪周≫≪姜≫と書いてあった。
「テクテクマコタンエロイムエッサイムアブラカタブラひらけゴマ!」
 かかげると札が光り、宙に浮く。
「触れてみるがよい、我が孫よ――」
「やだ」
「そう言わずに」
「やだ」
「くっ、このっ」
 祖父に腕を掴まれた逸美は暴れたが、抵抗虚しく指が札にとどく。
 触れた先からつるつるとした心地が伝わる。
 次に指先がなんかモヤッとしたものに包まれた。
「何コレ、キモッ!」思わず叫ぶ逸美。
「キモいとは何だ!」
 祖父・三蔵が大声を出した。うるさい。
「これは千年の時を経てよみがえった秘宝……それをキモいと言うと、呪われるぞ!」
「呪!?」
「呪殺もできるのじゃぞ、陰陽師は! 夢○獏を読め!」
「そんなこと言われても……」
 なぜか説教されてしまった。
「おおっ、やっと光が……」
 言われてみてみると、札は光らなくなり床に落ちていた。
 おもしのようなものが載る。
「誰がおもしだ」
「え?」
 おもしがしゃべった!?
 載っているのはこけしみたいなの。二、三頭身だと、よく見たらわかる。なんか変なカッコの人形ズ……? 小さい割に顔とかよくできてるみたい。
「おおっ! 現れたわい!」
「三蔵か。すっかり老いぼれて」
 人形のうちの一つがトコトコ……チョコチョコ? 歩いて祖父に寄る。
「年取ったからってこれはないだろ?」
「いいや、コレは孫娘のチカラなのじゃ」
「あ?」
 くるりと、その人形(仮)は逸美を向く。
「孫娘……?」
「国元逸美じゃ。ていーンズじゃ」
「それでいいのか三蔵! ハッキリ言って、向いていない! 才能もない! オカラクズだ!」
「他にいないんだもん、孫」
「くっ、忌々しいっ」
 人形は吐き捨てた。
「……???」

 解説しよう!
『管狐はコンパクトな狐を……じゃなかった、小型軽量化して持ち運ぶ技術だ!』
『さらに運びやすくし、強力なものを入れれば……!』
『ちょうどいいのを強……入手したからコレでいーや』
 と旧日本軍は新兵器を開発した。材料は紙と、守護霊だ。
 守護霊は、さる国にいてフラフラしていたやつや崇められていたものを強奪してきたものだ。さる国、守護霊からしたら地元の人々は、反日思想になってしまったかもしれない。旧日本軍の暗愚である。
 と、新兵器開発局第三課は、国からの金が大量に余ったので、紙にちょっぴり金をかけてみた。京都の職人もびっくりした。
 国に金を返さないのはアレだ。年度末に工事が多いのと、もう一つ。戻し先の本社本局には、イヤァな元上官やイヤミな元同級生がいたから。
 見とれよとばかりに芸者さんを呼んで宴会をしていた第三課は、「コレ、使えねーよ」という電話を受けた。
  まったくもって使えなかったお札は課の数人のモノズキに引き取られ、あとは全員が兵役にとられてバラバラになった。第三課は消滅したのだ。

「というのがコレじゃ」
 ランチョンマットの上に載っているのが守護霊たちだ。祖父の言っていることが真実ならば。
「というわけで、僕たちは、術者によって具現化されて戦うんです」
 にっこり笑って言う守(以下略)のうちの一体。槍を持っている。竹串みたいだが。鎧の下で布を、なんかこう、インド? アラビア ?みたいなかんじに巻いている。変なの。
「だから術者の力量によって姿、体の大きさが変化する! そうですよねお師匠さま!」
 竹串(仮)は隣のに言った。なんかこう、解けかけたロールケーキみたいな帽子と、ウチワ? を持っているやつ。それは頷いた。何なの。
「だからこんな姿に……」
 じっと手を見ているのは、なんか独特(としか言いようがない!)な兜をかぶった奴。小さい、たった二.頭身なのに、ため息なんてついちゃって!
「これが、旧日本の残した恐るべき兵器なのじゃーっ!!」
 どびしっ!!
 人に向けて指をさすのは失礼だと思う。孫の逸美相手でも。
「これのどこがオソルベキなの?」
「わかっとらん!」
 喝ー!! と、近所迷惑な声を出す。うん、うるさい。
「現地住民に慕われる力が術者を介して守護霊を強大にする。すなわち、使いようによってはピーよりおそろしいのだぞ! 現地住民を除いた、いや、彼らを信じず崇めぬ人々は、死滅しかねん! そうしたら現地住民の天下……! 下手をすれば、日本も危ういのじゃぞ」
「三蔵、あの国はそんなことしないと思うが」兜のが言った。
「いーや! 某国に騙され、札の力を最大限にされ、某国バァサスアノ国、某国バァサスさる連合の兵器に使われてしまえば……! 民族的にも、大陸が離れたアノ国は、守護霊に対する力がない……! スー○ーマ○が十数世紀の歴史に勝てるとでも!?」
「いや、負けないが」
 さっきオケラクズだのなんだの言ってきた奴がぽつりと言った。
 まあとにかく。
「術者の力量で具現化がかわる。ワシほどの術者のがやれば強大な守護霊になるのじゃぞ」
「そうしたら僕たち、頭身が高くなるんですよ」
 竹串が頭を示す。
「左様。ワシのフルパワァならば、二十五頭身になるのじゃ!」
「キモッ」


「元々はダンディーでちょいワルだったのに、こんな羽目に……」
 ムッとしているのがソウ。
 竹串がキョウで、その師匠がリョウらしい。
 なんかハデなのがシュウ。
「これらをどうしろと……?」
 逸美は「もういやだ」の意を顔に現した。
「ウォッホン」
 わざとらしくセキをする祖父・三蔵。
「守(以下略)の力を平和に使おうと、十年たびに大会が行われておる。日々修行をし、いつ挑んでくるともわからん対戦相手に備えるのじゃ!」
「今度テストがあるからさ、じーちゃんがやればぁ?」
「ワシはもうトシじゃ……」
 平均寿命までまだあるのに……。むしろ、殺しても死ななそうなのに……。
「だから、頼むぞ」
 我が孫よ――
「だが断る」
「ハイかYESしかないぞ」


 嫌がる逸美は引きずられるようにして外へ連れられた。
「ってなワケで修業だ」
 二.五頭身のクセしてなんかエラそな奴め。
「修行ったって、何すんのー?」
 ドサ。
 やたらありきたりな音を立てて、古そうな本が積まれる。
 紐でくくられている、分厚い本。しかも古そう。
かたわらにチョコンと立つソウ。けっこうこいつワンマンだ。
「読破しろ!」
「いやむしろ爆破したい」
「それはならん!」三蔵が飛び出してきた。
「ほら、お前が嫌がるから、三蔵のジィさんが発生しただろう」
 三蔵の頭の上からキョウ(ウィズ竹串)が降りた。
「逸美殿、まだ始められないんですか?」
「始めるったって……」
 本の山、肩から腰ぐらいまでの高さだし……。
「読んでみれば、案外楽かもしれませんよ」
 二.五頭身に励まされ、ホコリまみれの一冊を手にとった。硬い紙がめくりにくい。
 開くと、黒山の文字だかり。
「ひらがな無い!?」
閉じて山の頂に戻す。
「当たり前だろう、漢文なんだから」
「日本では国語で習うと聞いたから、きっと大丈夫!」ぐっ。
「全くもって、大丈夫じゃあない!」
「最近の日本人は国語すらできないのか。イギリス語なんてやっっている場合じゃないな。国籍を偽っているのか?」
とにかく読めないというと、ソウとキョウはそれぞれ嫌な顔をした。
「八頭身に戻りたい」ソウは言った。
「なにが八頭身だ。元々キサマは六頭身だろう!」
「その声は!」
何か知らない声に、二人が構えた。
逸美がそちらを向くと、つばつき帽子に半袖シャツ、半ズボンにバンソーコ、白い靴下にスニーカーの小学生男子がいた。
その両側には、同じくらいの身長の二人。
武器……なのだろうが、虫取り網ほどの長さだ。
ちびっこ三人衆だ。
「挑戦者ですね」
「あれが!?」
 あんな小さな子どもと!? 大人げなっ!
「では僕は師匠たちを呼んでくるので、二人でそれまで頑張ってください」
 竹串を抱えたまま、キョウはスタコラ行ってしまった。
 残された。
「まあ、奴らがいなくとも雑魚相手なら十分だ」
 ふんぞるソウ。
「でも丸腰じゃないの!?」
 虫取り網でも、なんかヤリっぽいのを向けられたら焦る。
「ふっ。むしろこんなのに負けたら生きていけない」
 言って腰に手を当てたままである。
「やれ! ガンちゃんブンちゃん!」
 ちびっこが叫ぶ。
「「おう!」」
 飛び出す二人。
 槍が構えられ、穂先が光って突き出される。
 なのに動かない、この我が道行きすぎ男。
 刺さる、寸前。
 槍が真ん中からぶつりと折れる。
「「な、何!?」」
 びっくりすると、人(?)はそうしか言えないのだろうか?
 ソウの前に立つのは二人。
 ちょこん。
 手に載りそうな二.五頭身だ。
 二つ、どちらも鎧で武器を持っている。そう言えば、刀や銃は規制されるが、槍はどうだろう?
(逸美、刃渡り4.5pか5pからはダメらしい)
 はっきりしない、父・四朗の声が頭に響く。
 でもまあ、マズそうだ。
 二人の武者はソウの前に立つ。かばわれて仁王立ちしているのはどうかと思うが。
 片方の武者は眼帯をしていた。もう片方は顔などの肌が出ている箇所に傷があった。
 強そう。
 二頭身だけれども。
「なんと、変わり果てたお姿に……」
 傷だらけがソウの方に頭をやって言う。
「ライ、お前も二.五頭身だが」
「「!?」」
 どこからか手鏡を出し、それを見て固まる。
「ああ、何てこった」
「これじゃああいつらに会っても偽物と思われるんじゃ……」
嘆く二人。
そんな二人に。
「もらったあ!」と突きかかるブンちゃんガンちゃん。
 えっこれってやばくね?
 と、心配(その程度のレベル)をする逸美。
 槍(の残った棒)が襲いかかる。折れた面がささくれているので十分危険だ。
 しかし、その槍(の棒)の一つが粉々に砕け散った。
「「なっ何ッ!?」」それしか言えんのか。
 居たのはキョウ。竹串で槍を受け止めて、その衝撃でブンの槍が折れたのだった。
 竹串に負ける槍って……?
 でもまあ助かったからいいや。
「今、師匠たちが準備しています。それまでは……!」
 竹串を手に暴れるキョウ。
 折れた槍や槍くずを手に逃げ回る二人。サイズはちびっこ。ガリバーの一場面みたいな感じがする。
「覚悟!」とたとたと追い回している竹串武者。
 ブンちゃんとガンちゃんが二手に分かれたところを、ソウの呼んだ二人が阻む。
 あわてるガンちゃんブンちゃん。
 あっ、でも、ソウは何もしないの?
 逸美が身を乗りだした時。
 あつくなった。
 温風……いや、熱風だ。
 ドライヤーの強よりアツい。
「うわあああ!」
「うぐあああ!」
 ガンちゃんブンちゃんはくるくる回りながら倒れた。
 膝をついて「そんなー!」と地面をたたくランドセラーもいる。
「一件落着です」ロールケーキのリョウは、ウチワで扇ぎながら言った。
 そこへドタドタと走ったのはソウである。
「こっちにまで火が点いただろうが!」
 炭で黒くなっていた。
「火計です」
「いーや火刑だ」
まあ、ひとまず敵は倒れたのだった。

続く!!


次回予告
学園物のおなじみ、転校生。
逸美のクラスにもやって来た。美人の帰国子女が。
しかし彼女は……。
第二話『つながるわっかにつながれて』
君は軽と転を間違わずに書けるのか!?




第二話つながるわっかにつながれて


猛将、皿を洗う。
「……………………」
 何故こんなことをしているのだろうと、センは思った。
 女のためだ。あ、一瞬で答えが出た。
 その女一人のために彼ら父子はこうして頑張っているのである。ふと居間の方を見れば、義父が笑いながら内職をしている。
 あの女は巧みであった。『彼』本人とは違い、『彼』を思う民らの心から生まれた彼(セン)は、一目惚れ、それどころか恋などはじめてだった。多分養父もそうである。
 なんか丸め込まれたような気もするが、今は、良い。
 異国に来て使われるのは嫌だったが、あの娘にならいいとすら思えてしまう。
 ……彼女が望むなら、養父の首スパーンとやってもいい、……なんて。


「誤解よお養母さま! わたしは、ただ――」
「おだまりこの女ギツネ!」
「返してよ! 私のあの人を返しなさいよ!」
「キャー!」
「こうするしかなかったの! ほかに考えられる!?」
「アイツのせいで、私の人生滅茶苦茶よ!!」
「ギャー!!」
「この子は私と居た方が幸せなんだから!」
「ウギャー!」
「男が泣くな!」
「よくある非社交的人間ね。自分の殻にこもって、自分にだけ都合のよい妄想を育てるタイプ」
「これはフリーメーソンリーのユダヤ人幹部の仕業に違いない!」
「まさか……貴方が生き別れの兄だったなんて……!」
「女を殴るなんてサイテーよ!」
「アンギャ―」
「こいつらは悪い子じゃないんです。不良なんて、落ちこぼれなんて言われてるけど、根はまっすぐなんです」
「ギャピー!」
「白衣眼鏡幼馴染萌え」
「この泥棒猫!」
「犯人は―――」
 ブツンと音が鳴る。ブラウン管から光が消えた。
「特に面白いものもやってないか」
 リモコンから退いたシュウはつぶやいた。
 前、三蔵の時代は、国に帰りたいと思いながら三蔵の弟妹を見ていた。よく転ぶからである。
 その息子四郎の時代は、やたらと絡んでくる家族がいた。
 今は一人っ子の使われ。そして一軒家。他の守護霊とはいずらいし、することがないのだ。せめてあの守護霊さえ……。
 そんなどうしようもない事を考えてしまうほど、暇なのだった。

 逸美のクラスに転校生がやって来たらしい。
「今のクラスの女子よりランク高いコがいいよな」
 と発言していた男子生徒は袋叩きにされていた。ナムサン。
 期待を裏切らず、転校生さんは美少女だった。
「帰国子女でハーフ!? こりゃあもう天の恵み、掃き溜めに鶴としか……」
 また同じ生徒が発言したため、クラス内でけが人が出た。先生止めろよ。
「ご紹介にあずかりました、千世瀬知夜です」
「彼氏いるんですか!?」
「「「「だまれ」」」」
 また沈む男子生徒。今日から彼のあだ名は単細胞生物だ。

「助けろ」
「ムリです」
 詰め放題よろしく詰められているのはソウとその部下たちである。

 寝てたらタオルと一緒にポーチに入れられてしまったのでこりゃあまずいと部下達を呼んだがどうにもならない、むしろキツいし空気が薄い。
 ファスナーにもみじの手を伸ばすけれど、内側からでは意味がない。爪がカラカラ音を立てるだけだ。
 七十年前に日本に連行されてから、よい事も悪い事もあったけれど、まさかファスナーとタオルに挟まれてしまうとは。
 守護霊にも死は有るのだろうか。かすみゆく目をおさえようと手を開く。
 ――――と。
 独特の音がして、上部が明るくなる。
「何してんの?」この声は。

 タオルやスプレーを入れといたポーチから発掘された守護霊とその部下たち。彼らを教科書の上において、逸美は走り出した。
 筆入れにしがみついているのがライだ。
「トンが落ちた」慌てて拾う。
 はたと気づいて、筆入れに体半分つっこむ。安心。
 げた箱から靴を出して、そこに三人を入れる。少しだけ空けておいてあげた。
「おい、携帯電話を置いていけ」
「嫌」
「ウ○ーク○ンでも可」
 しょうがないから置いていってあげた。まったく、二.五頭身のくせに生意気である。
 そう思って逸美がため息をつくと。
「逸美さん」
 げた箱のふたを膝で閉め、振り向きなおる。悲鳴が聞こえたけどいいや。
「ご飯ってどこに売っているのかしら?」
 そこにいたのは知夜だった。

「おい! 音が鳴らないぞ!? おい! おーい!」
「えっと、購買は一階の……」

 きんぴらごぼうかにクリームわさびマヨネーズパンを購入した知夜は、教室の場所も曖昧らしく、また案内した。
 普通の女子高生みたいだった。
 なんかよくわからない戦いに巻き込まれているなんて、夢の中の出来事のようだった。
 ……………………。

「対戦!?」
「そうじゃ」
 帰宅したばかりの逸美に、三蔵は「対戦相手がやって来たぞ!!」と叫んだ。となりの田中さんから苦情が来た。養老院のチラシをくれた。
「田中さんめ……」
 逆ギレしながらも祖父はチラシを丸めた。葬式場や墓石のチラシと一緒にホチキスでまとめてあったからだ。
「まあまあ。ジョークの好きな田中さんなんだろう」
「ブラックジョークか!?」
「そんなどうでもいいトラブルは置いておいて、対戦相手って?」
「そうじゃ、わすれておったわい」
 手をポンと叩く三蔵。
「おまえの高校の近くの神社でやるぞ。今日の夜九時じゃ」
「それを八時に言うな」

悟りが開けるんじゃないかというほどの長い石畳の階段を上がると、そこには対戦相手。
 暗い中にうっすらと浮かぶ輪郭は、年頃の少女のもの。
「来ましたか」振り向いたのは。
「知夜さん!?」だったのだ。
「私のおじい様も関係者だったんです」
「やはりそうでしたか」逸美の肩から飛び降りたのは、リョウ、キョウ師弟だ。
「妙な気がしたので潜伏したかいがありましたよ」
「今日、お師匠さまと、学生かばんの中に隠れていたんです」
 ソウ一行より一枚上手だった。
「千世瀬知夜は千世瀬応引氏の孫。確か応引氏は札を二枚所持していたはず。しかし、初戦から一度も、召喚したことはなかったという……」シュウが知夜を見ながら言った。
「ええ。だれも解放したことがありませんよ。私以外は」
「むう……。では試合を開始したいのじゃが」三蔵が口をはさむ。進行役か。
「あ、ふたりが来ましたわ。こっちですよ」
 ドタドタと現れたのは、二人の男。
 一人は背が高く、大柄である。背中に物干しざお的な何かを背負っている。自転車を曳いてここまで来たらしい。
 その赤い自転車の荷台に載るのがもう一人。ダルマの様な男であった。体脂肪率いくらだろう。ダイエットする女性にとっては「こいつよりまし」「アイツみたいにはなりたくない」と励みになりそうだ。
「こちらが私の家系に伝わる守護霊さんですの」
「ホーッホッ。お前たちが対戦相手とは。すぐに家に帰れそうだのう」
 とりみたいな声を出すダルマ。
「対戦相手ってこいつらか」さも嫌そうに言うソウ。
「知ってるの?」
「嫌な奴と困る奴」
「守護霊の中でも異色な存在ですよ」リョウが前に出た。
「でもまあ、一番厄介なのは、あの術者なのだと思いますがね」
 かくして戦いは始まったのだが。
 やはり戦いは身体の大きさが物を言う。
「これでは不利か……」
 当たり前である。
 自転車を止めてきた男が持っていたのは、槍ともなんか違う棒状の武器だった。よくわからないけども。
 それを避ける師匠弟子コンビ。
 キョウが竹串を足めがけて突き出すが、あやうく蹴られそうになって一度引く。
「ホーッホホ。たわいもない」後ろで笑うダルマ。
「かかれ」ソウがライとトンを呼ぶが、絹ののれんが風に揺らされるのをおさえるほどラクに止められる。次の号令で、木の陰からいっぱいの兵士が出てきたが、どうみてもおもちゃレベルの矢は刺さらない。
 人数的には袋叩きのフルボッコなのに。
「ホーッ。まったくもって協力しようとは思わんようだのう。敵の札ばかり集まるとは」肉ダルマが腹を揺らす。
 たしかにと逸美は思った。ソウ、リョウ、シュウは仲が悪い。近くに置いてはいけないレベルなのだ。
「足手まといがおれば、五十騎も百騎も変わらんわい!」
「それはどうかな」
 肉ダルマの肩に登っているのは、暗いし遠いから顔は分からないが、あの特徴のある頭部は。
 ダルマの耳のすぐ近くでスッと音が鳴る。いきなり光が現れる。
 マッチの火だった。
 それを首もとに近づける。このままだと、高校の文芸部誌としてふさわしくない描写が必要になってしまう。
「ホッホー。これはやられたわい」
 そこまでされても夜の森のトリみたいな声しか出さないダルマだった。

「さすがです逸美さん」
知夜は握手を求めてきた。応えていると、語りだす。
「私は本当は母方のおじい様の言い付けでここに来たんですの」
 千世瀬姓は父方らしかった。
「おじい様のおとう様はナチス・ドイツで新兵器を開発していたの。お知り合いの、フリーメーソンリーの方から聴いて、とあるもに目を付けたの……」
「なんじゃと!? ドイツまでもが!?」
 三蔵が叫ぶ。うるさい。
「ええ。でもやはり、ヒトラー政権中もその兵器は役に立たなかったわ……」
 知夜がポケットから出したのは、花札のようなカード。
「祖父 フォンスウィークォド・MBTから母オリザ・サティバ・BTに伝わったのはこれ……」
 花札が光る!
「さる国の108人の豪傑への民衆の思いが具現化した……」
「それはもういい」
 きっぱりと言った背景の夜空に、カラスのカーの音が響いた。
フォンスウィークォド・MBTから母オリザ・サティバ・BTに伝わったのはこれ……」
 花札が光る!
「さる国の108人の豪傑への民衆の思いが具現化した……」
「それはもういい」
 きっぱりと言った背景の夜空に、カラスのカーの音が響いた。
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